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2013.08.24 過去のニュース

ナオコへの手紙 9

ナオコへの手紙                                 

浅香 洋一

今、深夜の2時45分。こんな時間になにをしているのかって………きっと当たりません。
――― 国語辞典を引いているのです。―――

やさしい響きを待っているのはマ行のことば。「ゆ」のつく言葉はもっとやさしい。夢・夢路・ゆめまつり・湯文字・湯屋・ゆらかす・百合・許し・緩やか。音と共に、意味までおおらかなのです。ちょっと哀しいことがあって、目のさえざえとして寝つかれない夜。僕はスタンドの灯の下で様々な表情をもった言葉と出逢っていました。胸のかたすみに宿ったかなしみを、温かで優しい言葉で包んでいます。そして、こころ一杯にことばが詰まってきて、少し饒舌になりはじめたみたい。

何がかなしいのかは、きかないこと。僕だって説明できない「夢」もあるのです。ただ、かなしくなって胸がふさがれ、それでいても笑顔でいなくてはいけない夜を迎えたのです。星の静かなまたたきと、辞典をめくる音が交互に聞こえてくるような夜、月の光をあびて体が透明な光の粒子になっていきます。かなしみもキラメクつぶつぶになって、足元からさらさら流れてゆく。ページをめくる音とのハーモニー。それにつれて、僕の体も希薄になって、頭のほうから夜の豊かなかおりに溶けこもうとするのです。透明になってゆく上半身。あっ、胸まで溶けていったら、楽になりました。胸の奥に、温かな言葉でくるんだはずの、かなしみの澱が流れ去っていったのです。

いきおいよくカーテンを引き、窓を開けました。見上げると、ミルキーウエイ、心の奥に沈んでいた澱がしんと輝いています。天上にささげたかなしみを見上げた僕は、もう大丈夫。

冬の天の川は、虹のようです。


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